【書籍紹介】佐藤オオキのボツ本
『佐藤オオキのボツ本』は国内外で高い評価を受けるデザイナー佐藤オオキさん著の、徹底的にボツを「いかす」書籍です。
世に送り出される一つの何かの為に、数多く生み出される「ボツ案」
本書では、これまで日の目を見なかった「ボツ案」を取り上げることで、プロジェクトの中での「アイデアの出し方やまとめ方」「クライアントへの提案方法」「完成までのプロセス」などを掘り下げて知ることができます。
「完成形」の語りだけでは知りえなかった佐藤オオキさんの思考を、具体的な例を通して理解することができる書籍となっています。
取り上げられている「ボツ案」
書籍では、世に出ていない商品の「ボツ案」も、完結したプロジェクトの「ボツ案」も紹介されています。
自身の作った「ボツ案」だからと言って、プロのデザイナーがそれを書籍にするのは簡単なことではありません。
自身やクライアント、商品のイメージに関わるからです。
それを取り上げるには、何よりクライアントの理解と協力が不可欠になります。
そんな貴重な「ボツ案」を本書では以下商品について取り上げています。
- 「飲み切らせる」ゴミ箱案
- ロッテのタブレットキャンディ『Bcan(ビーキャン)』
- 洗わず食べられる無農薬レタスのデザイン
- タカラベルモントの企業ブランディング計画『3/30』
- 早稲田大学ラグビー部のブランディング計画
- IHIの企業広告
- エースのスーツケース『プロテカ』
この中で私が読書前に実物を見たことがあったのは、IHIのポスターだけでした。
佐藤オオキさんと言えば、代表作の一つにロッテのガム『ACUO』がありますが、そちらではなく地域限定発売の『Bcan』を取り上げているあたりに「ボツ案」を扱う難しさも感じられます。
この内、「タカラベルモントの企業ブランディング計画『3/30』」と「早稲田大学ラグビー部のブランディング計画」は、佐藤オオキさんのデザインオフィス『nendo』のサイトで「完成形」の紹介を見ることができますよ。
サイトでも「完成形」に対する制作の背景やコンセプト等、結構詳しく語られていますが、書籍では「ボツ案」を通してさらに踏み込んで理解できるようになっています。
IHIの企業広告(デザインハブの企画展にて撮影)
ポジティブな「ボツ案」
本書でいくつも見ることのできる「ボツ案」
本は写真や図も豊富でわかりやすい構成になっていました。
なぜ「ボツ」なのかがわかる「ボツ案」については写真や図にボツの理由も書かれています。
「ボツ案」といっても、それはクライアントへの提案を行ったもので、とても完成度の高いものとなっています。
プロダクトであれば3Dプリンター等によって、実際にそのまま店頭に並べられても違和感ないレベルまで作られています。
「ボツ案」と「完成形」を比べて、やっぱり完成形の方が良いと思う商品、「ボツ案」の方に魅力を感じる商品等、様々でした。
そこまで作り込まれている「ボツ案」だから、それがまた別の形でいきることも多い様です。
「ボツ案」の一部が完成形に取り込まれたり、クライアントを含めたプロジェクトチームの思考整理や、やる気の向上に一役かったりと、書籍では「ボツ案」の様々なポジティブな面が紹介されていました。
佐藤オオキさんの思考に一段階踏み込める書籍
最近、佐藤オオキさんの本はよく読んでいて、他の書籍でもそのロジカルな思考は勉強になることが多いです。
「ボツ案」を書籍にしてしまうことが佐藤オオキさんらしい。
本書の中で「ボツ案」のいかし方を色々書いていますが、その「いかす」でついには「本」にまでしてしまったのですから。
佐藤オオキさんの思考が「ボツ案」を通した具体例で示されることによって、これまで以上にそれに踏み込める書籍となっていました。
佐藤オオキさんがどうアイデアを生み出し、どんな形でどれほどクライアントに提案するか、そこから決定するまでの過程や思考を知りたい人、また「ボツ」を恐れずどんどんアイデアを形にして、それをいかしていく方法を知りたい人にオススメな本です。